「薬やめる科」は極論か?現役薬剤師が見た「飲まなくてもいい薬」が消えない不都合な真実
「薬やめる科」は極論か、それとも救世主か?

はじめに:Yahoo!ニュースで話題の「薬やめる科」をご存知ですか?
先日、Yahoo!ニュースで「薬やめる科」という言葉が話題になっていました。
リンクを共有しようとしたところ、すぐに記事が消えてしまったようですが、また似たような記事が出てきたので共有しておきます。
その主張はズバリ、
「世の中の薬の9割はやめられる」というもの。
現役の薬剤師として、毎月数百件の処方箋を手に取っている私の正直な感想を言わせてください。
「9割というのは、流石にちょっと過激かな……」というのが本音です。
しかし、同時にこうも思うのです。
「確かに、飲まなくてもいい薬がそのまま出続けているケースは、驚くほど多い」と。
今回は、なぜ「不要な薬」が減らないのか、そして「薬をやめる」という選択肢がこれからの医療にどう必要なのか、現場の裏側を包み隠さずお話しします。
やくたろ|在宅訪問薬剤師
有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、ご自宅などに訪問し、薬の管理や服薬指導を行う薬剤師。
病院薬剤師としての経験もあり、医療と介護の両面から“現場で本当に役立つ情報”を発信しています。
「親の介護、何から始めればいい?」という悩みに、できるだけやさしく、わかりやすく答えていきます。
- 「薬やめる科」は極論か、それとも救世主か?
- なぜ今、国を挙げて「減薬」が進んでいるのか?
- 正しい減薬提案ができる薬剤師の条件
- 結論:薬剤師自身が「減薬」を語る時代へ
- まとめ:これからの減薬との向き合い方
1. 現場で感じる「漫然とした投与」の違和感
私たち薬剤師は、患者さんの薬歴(薬の履歴書のようなもの)を長年追い続けています。そこで頻繁に遭遇するのが、
「これ、いつまで飲み続けるんだろう?」という疑問です。
もちろん、高血圧や糖尿病などの慢性疾患で、コントロールのために必要な薬はあります。
しかし、数年前に「ちょっと胃の調子が悪い」と言って処方された胃薬や、「念のため」に出された整腸剤やビタミン剤が、症状が消えた後も10年以上更新され続けている光景は、決して珍しくありません。
松田先生の「9割」という数字は極端かもしれませんが、多くの医師や薬剤師も、
「今の処方の数%、あるいは数十%は整理できるはずだ」
と内心では感じているはずです。
2. なぜ薬は増え続け、減らないのか?「前医踏襲」の壁
なぜ、明らかに不要と思える薬が整理されないのでしょうか。
そこには医療現場特有の
「前医踏襲(ぜんいとうしゅう)」という習慣があります。
理由①:リスク回避の心理
医師が新しい患者さんを診る際、あるいは別の病院から転院してきた患者さんを診る際、まず最初に行うのは「これまでの処方を継続すること」です。
いきなり薬を変更・中止して体調に不具合が出た場合、
「前の先生の時は良かったのに」
と不信感を持たれるリスクがあります。医師にとっても大きなプレッシャーです。
理由②:処方の背景が見えない
紹介状があっても、その薬が
「どういう経緯で」「どれほど切実な理由で」出されたのか
すべてを把握するのは容易ではありません。
「何か深い理由があるのかもしれない」と考えれば考えるほど、医師は現状維持という安全策を選びがちです。
理由③:多忙すぎる診療現場
最大の要因は、医師の多忙さです。
3分診療と言われるほど時間に追われる中で、10種類以上ある薬を一つずつ精査するのは至難の業。
薬の整理は、重要でありながら後回しにされやすい課題なのです。
3. 「10種類以上の服用」が当たり前になっている恐怖
朝だけで10種類以上、さらに昼・晩・寝る前……。
一日に何十錠もの薬を飲んでいる高齢者の方は珍しくありません。
これがいわゆる
「ポリファーマシー(多剤併用)」問題です。
薬が増えるほど、相互作用や副作用のリスクは跳ね上がります。
そしてやがて、
副作用なのか病気の悪化なのか、判別できなくなるという事態も起こります。
私たちは今、
「薬を飲むために生きていないか?」
と立ち止まって考える時期に来ています。
なぜ今、国を挙げて「減薬」が進んでいるのか?

1. 介護現場を追い詰める「服薬援助」という重労働
薬が多いことで最もダメージを受けているのは、実は
「介護者」の方々です。
認知症のご家族に10種類以上の薬を飲ませる現場は、想像以上に過酷です。
・口からこぼしてしまう
・「毒だ!」と拒否される
・後で吐き出している
これが朝・昼・晩・寝る前と繰り返されます。
介護現場の「事故報告書」という呪縛
施設では、吐き出しや拒否があれば
「事故報告書」を作成するケースもあります。
本来は「薬を減らせば解決する可能性」があるにもかかわらず、形式的ルールが現場をさらに追い詰めている――。
これは見過ごせない問題です。
2. 薬局経営のジレンマ:薬を売れば売るほど儲かる仕組み
正直に申し上げると、従来の薬局経営は
「薬を多く出すほど利益が出る構造」でした。
薬が減れば売上も減る。
そのため、減薬提案は決して歓迎される行為ではありませんでした。
患者さん・医師・経営者・スタッフ。
四方からの圧力の中で、減薬を訴える薬剤師は孤立しがちでした。
3. 厚生労働省からのトップダウン:ついに「減薬」が評価される時代へ
しかし今、状況は大きく変わっています。
国はポリファーマシー解消を重要課題とし、
「薬を減らすことに対する保険上の評価(報酬)を強化する」方針を明確にしました。
つまり、
「薬を売って評価される時代」から
「薬を適切に整理して評価される時代」へ
シフトしたのです。
これは、薬剤師にとって歴史的な転換点です。
4. 薬剤師だからこそできる「横断的な俯瞰(ふかん)」
内科、整形外科、眼科、皮膚科……。
複数受診している患者さんの場合、処方の全体像を把握できるのは
薬剤師だけです。
・同じ系統の整腸剤が重複
・似た効能の鎮痛剤が複数処方
こうした重複を見抜けるのは、
お薬手帳を横断的に確認できる薬剤師の特権なのです。
正しい減薬提案ができる薬剤師の条件

1. 薬剤師の「スキルの二極化」
残念ながら、
すべての薬剤師が減薬提案に強いわけではありません。
頼りになる薬剤師の特徴
・病院勤務経験がある
・在宅医療に携わっている
・バイタル(血圧・血糖値など)、検査値などが読める
最初は整腸剤やビタミン剤など、影響の少ない薬から整理するのが基本。
しかし経験豊富な薬剤師なら、
降圧薬・糖尿病薬など核心部分への提案も可能になります。
2. 医療の潤滑油としての「コミュニケーション能力」
減薬提案で最も重要なのは、
「伝え方」です。
・「最近ふらつきが増えていますが、薬の影響は考えられますでしょうか?」
・「ご家族さん・ヘルパーさんが服薬に苦労されています。回数をまとめてみませんか?」
このように、
事実ベースで、医師を尊重した伝え方ができるかどうか。
3. 「自己判断の断薬」は絶対にNG
ここは最も強調したい部分です。
「自己判断で薬をやめるのは非常に危険」です。
血圧薬・血糖降下薬・抗血小板薬などを突然中止すると、
脳梗塞や心筋梗塞のリスクが急上昇することもあります。
減薬は、
必ず専門知識を持った医師・薬剤師の管理下で行うべき医療行為です。
結論:薬剤師自身が「減薬」を語る時代へ

「薬やめる科」という言葉が注目される背景には、
医療の“出しすぎ”問題が限界に来ているという現実があります。
かつては異端だった減薬提案も、今は違います。
「薬を減らすこと」が、患者さんのため、介護者のため、社会のために評価される時代になりました。
もし薬の多さに不安を感じているなら、
ぜひ信頼できる薬剤師にこう聞いてみてください。
「この薬、まだ必要ですか?」
その一言が、生活を大きく変えるきっかけになるかもしれません。
まとめ:これからの減薬との向き合い方
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「9割やめられる」は理想論。現実は慎重な精査が必要。
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前医踏襲と多忙さが減薬を阻んでいる。
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ポリファーマシーは社会問題。
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薬剤師は横断的に俯瞰(ふかん)できる唯一の専門家。
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自己判断は厳禁。信頼できる専門家と進めることが重要。